シニアのための自分史講座

第一課 誰でも書ける

体験したことが強み

「文がうまい」「文章が上手」なことはいいことですが、もっとも大切なことは「文章に命があるかどうか」です。六課でやりますが、感動する文とは何か。


 読み手にとって、著者の体験が珍しいほど新鮮に映ります。


 戦争で死ぬ思いはしませんでしたか? 戦地で食べ物がなく蛇や蛙を食べたことはありませんか? お金がなくて質屋に通ったことは? 人に恋して大恋愛を経験した人は? スポーツ大会で勝った喜び……。


 そうです、他人では体験できない書き手だけのエピソードを綴ってください。


 水上勉氏のデビュー作『雁の寺』は、小僧に出されたお寺での経験がもとになっているといわれています。西村滋氏の『お菓子放浪記』は長編で映画にもなっていますが、貧しい子ども時代の苦労が書かれています。


 作家ですらデビュー初期のとき、自身の体験から創作をスタートすることは珍しくありません。こうした体験をできるだけ思い出し、メモして、次つぎに書いてみてください。あるいは体験談を思いつくまま、順序はあまり考えずに目次にしてみてください。


「わたしは、人様に聞かせるような貴重な体験なんかしていない」

 もちろん、こういう人もいるでしょう。ここで大切なことは、珍しい体験や貴重な経験だけでなく、じつは誰もが知っていることでもいいのです。では、そのことを次の項で解説します。

 

②自分にしか書けないもの

 誰でも経験することでいいのです。こんなことがありました。わたしの体験談です。

 ある日、突然、一本の電話がかかってきました。その声に覚えがなく、いま流行の「オレオレ振込み詐欺」かと思ったほどです。


「もしもし、失礼ですが、塚田さんのお宅ですか?」

「はい、塚田ですが……」

「そちらに一未さんという方はいますか」

「わたしですが、どちらさまですか?」

「じつは小学校の同級生で……」


 ようやく思い出したのは、遠い四〇年以上前の、東京下町の記憶が鮮明になってきてからでした。


 長い間、途絶えていた小学校のクラス会を再開したらしいのですが、わたしは転校、引越しを繰り返していて、卒業名簿では住所が不明になっていたそうです。やっと捜しあててくれた経過を聞いて、ほんとうに嬉しかったのです。


 東京から千葉県市川市に引越していましたが、この実家までは中学校の名簿でわかったそうです。幹事の方が訪ねてくれたそうですが、このときはすでに卒業から何十年かたっていて、両親も亡くなり、近所の家で聞いても行方は知れず。わたしは新宿、千葉に転居、結婚し習志野市に住んでいたのです。


 住所ではわからなかったので、今度は関東一円の電話帳を調べてくれたらしいのです。

「君の名前は一未という珍しい字だから、意外と早くわかったよ」

 幹事の人はいとも簡単に捜索方法を聞かせてくれましたが、こんな苦労までして同級生(わたし)を捜してくれた話に感動しました。


 わたしは、この小さな体験を同人誌に詳しく書きました。どれほど人のあたたかさ、同級生のやさしさを知ったか。感謝の気持をていねいに綴りました。


 どうです。みなさんもこの程度のことならいくつか経験されているでしょう。けして大事件の話ではありませんが、大切なポイントがあります。それは、これから何度か指摘しますが、「文は人なり」とも、「文章は人間の感動」ということです。上手な文章よりも人の心を見つめる眼が大切なのです。第六課で詳しく説明します。

 

③失敗や恥ずかしい話

 読み手にとっておもしろい文章とはどんなものでしょう。

「くすっ」とほくそ笑んだり、「バカだね」と嘲笑する文はどこか身近で、親近感の湧くときがありませんか。落語のネタのようなものです。


 けして傲慢でも小バカにしているのではなく、「よくぞ、書いてくれた」という程度の心地よさがあるのも事実です。


 ところが、いざ自分がそうした失敗談や恥ずかしいことを書こうとすると、なかなか筆が進みません。


「読んだ人はどう思うだろうか」

「知っている人が見たらどうしよう」


 こうした読者の反応を想像して、書くことを躊躇したり、少し格好よく書いてしまいがちです。


 ある著名な作家がいいます。

「書いた作品は読者のもの。自分(書き手)がどんなに恥ずかしくても忘れなさい。誰から非難されてもかまわない。一度、自分の手から離れた作品は独立独歩で歩いてしまうので覚悟をしなさい」


 読み手側に立つと他人の失敗にも興味わくものですが、自分(書き手)の側になると垣根を作ってしまいます。


 むしろ、読者(他人)に笑われるほどの失敗やくやしいことなどを書けるかどうかです。思い切って、恥かいたことや失敗談を書いてみてください。

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