シニアのための自分史講座

第二課 何を書くか

主題を決める

 この講座のなかでもっとも重要で難しい課かもしれません。


 主題とは何かを辞典でひいてみると、「芸術作品などの中心となる思想内容」などと解説されています。芸術作品、思想内容といえるかは別にしても、文章のなかでもっとも大切にしたい、強く訴えたい事柄です。


 具体的なわたしの文章例で説明します。

 

「二つのダムとふるさと」

 あなたにとってのふるさと(故郷、古里)はどんなところで、どんな思い出ですか? 今度の東日本大震災でこの言葉が「復活」したことに、特別な喜びを感じるわたしです。


 熊本県の奥地、鹿児島県と宮崎県の県境に近いところに球磨郡はあります。「くまぐん」と読みますが、焼酎がおいしい、わたしのふるさとです。日本三大急流といわれた全長一一六㎞の球磨川が流れ、人吉市から汽車に乗って上流にのぼると、まるで中国雲南省の水墨画を見るような風景です。


 ところが、この球磨川はすでに半世紀前、一九五〇年代に三つのダムが造られ急流、清流とは名ばかりの川になっていました。手で掴めるような鮎は激減し、激流で膝下でも渡れなかった流れは面影すらありません。


 ところが、この球磨川の最大支流、川辺川のダム計画が中止になり、最下流にある荒瀬ダムが撤去作業にかかるのです。ダムを壊し、撤去するのはアメリカやカナダでは始まっているそうですが、日本で初めての試みです。こうした方向は政府の考えとはまったく別で、長い住民運動の成果だということをわたしは知っています。


 ダムでの環境悪化は、球磨川と川辺川との合流点に立つと一目瞭然にわかります。ダムのない川辺川からは清い流れ、上流に市房ダムがある球磨川はいつも雨水が流れているような濁り。尺鮎として知られる両川の鮎は、値段も一〇〇〇円ほど違います。河口の八代湾の漁業も激減、のり養殖業者は九〇〇軒から二軒に壊滅しました。


 ところが川辺川ダム建設中止と荒瀬ダム取り壊しの快挙です。どんな効果が出るか、全国の注目が集まっています。


 一方、群馬県長野原町に予定されている八ツ場(やんば)ダムは、民主党が公約を破って白紙撤回から建設再開を決めました。


 政府より力を見せた国土交通省の再開報告書は、まったくの詭弁です。七〇~八〇年に一度の洪水を想定し、八つの降雨モデルを計算したそうです。八ツ場ダムができれば下流域の洪水が防げるという計算。


 ところが、実際の同ダムが必要なモデルの雨水量は二例だけでした。こうなると七~八〇年の計算は、さらに四分の一に限られるので、二八〇~三二〇年に一度の洪水を想定していることになります。数字のごまかしの典型でしょう。


 すでに半世紀近い計画当初から、首都圏などの水の需要は減りつづけていますが、水不足を相変わらず唱えているのも不思議です。


 ふるさとを思い、考える人だけでなく、この国の方向をみんなで検討する時代ではないでしょうか。

 

 ここでの主題は「ふるさとの自然を大切にしたい」思いです。自然を破壊しているダムの話を熊本と群馬の例で訴えたかったのです。

 

②素人だからできる

 子どもの作文や詩などには、時として感動的な作品があります。「綴りかた教室」「原爆詩集」などとして本にもなっています。


 特に優秀な子どもの作品でなくても、学級通信などに載っている日常の作文にも光る文章を見かけませんか。


「うちのお父さんはお酒を飲むとよくパンツ一枚になる」

「お母さんは、安いからといって遠いスーパーまで買いに行くが、そのわりには使っていない調味料も多い」


 親が読んだら赤面するようなことを平気で子どもは書きますが、この素直さに学びたいのです。自分が思ったことやいいたいことをズバリ書くことです。そのことは主題を見つける一つの方法です。


 読者に一番、伝えたいこと。どうしてもわかってほしいこと。「こんなことを書いたら恥ずかしい」などと計算せず、子どものように素直に書いてみる、そのことが読者をひきつけるのでしょう。


 子どものように素人だから思っていることをズバリ書けるのです。

 

③生きた時代を反映させる

 文章で柱になる内容が主題(テーマともいいます)ですから、文章の良し悪しを決定する重要事項です。


 みなさんはいろいろな経験をされてきた方がたですから、たくさんの時代を知っているでしょう。主題になる内容を生きた時代から引き出しましょう。


 たとえば戦争を主題にしただけでもいろいろあります。

・  戦争で体験したくやしい出来事

・  戦争で自分が経験したり、家族が受けた被害

・  空襲や食糧難で苦しかったこと

・  戦友や知り合いの戦死、ケガ、病気

・  軍隊の不条理や軍の非人間性

・  戦後の苦労など……


 できるだけ自分の身近な経験、近くで起きた実話などを詳しく書きたいものです。そのことが、今とはちがう時代のリアルさが伝わります。

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