音楽の根源とは

ある教授への手紙

 ある音楽教授から寄せられた原稿を読んで、しばらく考えさせられてしまった。素人のわたしが、音楽の起源から現代ロックまでの成り立ちや影響について原稿評とは、とても、おこがましい。しかし、日本でも有数の音楽教育者の提言は、もしかしたら、今日の日本国民のあり方をも問うているかも知れないと思ったのだ。以下、手紙文から。

 

 はじめまして、当社編集責任者の塚田といいます。原稿拝読の途中ですが、一日も早く感想をお伝えしたく筆をとりました。

 この著作が、もしかしたら人類史的に意味があり、後世に長く伝えられるべき内容をもっていると思いました。今日の一般社会に流れ、影響している音楽の本質を憂い、そこに学校教育が大きく関わっているーこの現実を根本から問う著作。ですから、膨大な字数になったのも人類起源に溯り、音楽以前の音の存在から書き起こさねばならなかった。音ー発生、ことばー発達、音楽ー創造といった違いを分析する。まさに音楽・芸術を史的唯物論の立場から存在意義や発展を提起し、民謡やわらべ唄からラップ、ロックにいたる現代音楽への導きとしたいとの意図でしょうか。

 わたしはほとんど音楽の素人ですから、この著作にどれだけ迫り、理解できるかわかりませんが、この本で伝え、訴えたいことの意図は理解できると思います。先生は既刊がたくさんあり、音楽教育論では日本トップクラスの指導者だと知りえていますが、なぜ、今、この音楽基本論を書かねばと考えたのでしょう。それほどの危機感がこの国にあるということでしょうか。

 かつて、間宮芳生や外山雄三、林光氏などに取材し学んだことがあります。音楽が単なる楽しみ、娯楽にとどまらず生活と労働発展の過程で発達してきた話などを聞きました。また、チェリストの井上頼豊、評論家の湯川れい子氏らから「音楽は思想である」「だから市民に役立つ音楽の普及に努めなければ」との声も聞きました。「音楽的表現は人間の環境との対話、自然への働きかけや同化の中で生起する」「社会階級の進化、発展と共に文化、芸術、音楽も分離、独立していった」という、歴史的な発展の根幹をもっと若い指導者、教育者に学んでほしいと思います。音楽に限らず文学、美術、映画などあらゆる文化も同じだと思います。

 当然、教育界とくに東京都などの「君が代」強制唱和は、言論の自由や憲法擁護の抹殺に結びついており、とても許されないものです。キリスト教が音楽効果を神の力にすり変えるのは宗教の自由としても、東京都が文化、思想の強制をするのはまったく時代錯誤です。が、現代社会では一定の影響をもっているのも事実です。「不安定な社会だからこそ極端で危険な考えと勢力が伸びる」と、かつてのヒットラー出現を模して警告する人がいます。

 音楽教育が狭い範囲の葛藤でなく、著書にあるように指導者と生徒、音楽専門家と市民、地域との有効で自主的な結びつきなどへの提言もきっと歓迎されると思います。

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