俳句の世界

恩師からの俳句集に

 わたしの人生方向に大きな影響を与えた、元高校教師から俳句集が送られてきた。多くは短歌創作だと思っていたら、かなりの俳句もうたってきたらしい。当社から『みんな風に吹かれろ』(加津牟根夫)という既刊があるが、教え子たちが協力して発行なった。その一人を追悼した歌が冒頭に掲載されている、「墓前にて」。

 

自らが選びておきし所とか恒美の墓は風通る位置

とき折に孟宗竹の風に鳴る音あふれゐて恒美はかなし

おい恒美 せんせ来たぞといひし時風に塔婆が音を立てたり

 

 短歌も俳句も素人だが、せっかくの作品だから感想を返信した。番号のついたものが作品で、その下段がわたしの評。

2 黒南風(はえ)や来るなら来いときほい立つ 

()に向かう漁への意気込みが感じられる。

8 青葉風背筋動かぬ刀鍛冶

鍛冶師の現場が見えてきそう。伝統文化の匂いまざまざ。

17 抱き取る新米袋の温みかな 

農業はやったことないが、収穫の重みが「抱き取る」にある。

27 茄子抜きて土叩きいるひとりかな

前句と同じく土に生きる臨場感が伝わる。

35 渋滞のニュース蛙の大合唱

国民的行事の渋滞・動と、それを聞いている田舎での風景・静の対比。

38 蛍の火闇は大きな女体にて

毎年、各地に蛍狩りしているが、こんな発想に逢えなかった。

46 犬小屋に鎖の残る寒さかな

動物、犬をめでていた作者の心境が静かに追憶できる。

52 寄り切りの如く新米運び入れ

働く喜び、収穫の踊り心が見えるよう。「寄り切りの如く」がいい。

82 わが眼鏡覗きに来たる蜻蛉かな

トンボというありふれた題材を自分に引き寄せてうたった、平凡のなかの非。

 

こちらは「どうでもいいか」と思った句。作句の意図が弱い。

15 18 20 24 30 40 65 73 85

情景はわかるが、作者の声、主張、叫びが聞こえにくかった。

 

以下は何度か読んでも深められなかった作品。良し悪しがわからない。

21 輪転機今こそひびけ啄木忌

たしかに物書きにとっての大切な日だが、輪転機は自分の作品のことか、啄木自身への追慕なのか。

55 一文字も二文字もあり背戸の畑

文字がわからなかった。畑に生きることと文学を生む大地賛歌なのかな。

 

 師は俳句や短歌に番号をふっている。はじめは違和感もあったが、今回のようにたくさんの作品から選ぶ作業には番号がとても便利だと思った。

 短歌や俳句も世界共通になるから横組みでいい、と師の考えらしい。パソコンの発達は横組みを進行させた。たしかに未来には国境がなくなり、国家もひとつの世界になるという考えはある。ユーロ経済圏は初期の形態か。しかし、国境がなくなり世界が共通の言語や通貨を使っても、だからこそ、民族性や固有の文化、伝統はますます光り輝くだろう。もしかすると、宗教さえも消えないかもしれないと思うのだが。

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