「やさしい文章教室」執筆の手引き

〈どうしたら読む人に感動してもらえるのか?〉

 一番わかりやすいのは、自分が読者になってみることです。書き手から読み手になってみると、よく見えてきます。立場が逆転すると、今まで見えなかったものがハッキリすることは、誰でも経験してきたことでしょう。


 自分史でも小説でもドキュメントでも、感動するのは自分が体験したことのない出来事、知らなかった現象、普通の人では経験できないこと。珍しいことと一言でいえますが、作者しか知らないエピソードといってもいいようです。


 小さいときに体験した貴重な家族とのトラブルや喜び。学校時代の友情、恋、嫌いだったり好きだったりした学校の先生の思い出。育った町や村のそこにしかない行事、風習。誰にも負けない特技やスポーツ。こうして数えれば、誰でも10や20はあるようです。


 ここから具体的に書き始めます。


 いい文章とは、感動する内容だと言いました。感動することは、自分しか体験したことのないものとも書きました。いい文章に分野や種類のちがいはないと思います。自分史、小説、随想から詩や短歌などの短詩形まで人を感動させるものは共通しています。

 

 ずいぶん前の経験ですが、ひとりの障害者から手紙をもらいました。彼の障害はとても重く手紙も書けませんから、実際は彼の先生の代筆でした。


 梅村淳君、20歳、岐阜県中津川市在住の重度脳性マヒ。


 「彼が毎日、綴っている日記をどうにか本にならないか」と担任の先生からの相談。


 車イス生活、話すことも書くことも、もちろん歩くこともできません。わずかに動く左手でワープロを打って日記をつけていました。


 結果を先にお伝えします。


 『がんばるの火』という詩集になった作品から、いくつか紹介します。

 

  3時20分にお金をもらった
  うれしかった
  1万8000円もらった
  母さんに服をかってあげた
  父さんにくつしたをかってあげた
  おばあさんにくつしたをかってあげた
  修につくるおもちゃをかってあげた
  ぼくのお金でかってあげた

 

 「給料」という詩です。まったく解説や説明の要らない作品ですが、施設で働いた初給料だったそうです。つぎは「お風呂のへ」。

 

  へをした
  お風呂のなかで へをした
  きのう へをした
  ぼくは おもしろかった

 

 15歳から毎日、書いた日記だそうですが、わたしは直感的に「これは詩集にしたほうがいい」と思いました。左手もやっと動く程度なのですが、短く自分の思いを素直に書いていました。


 みなさんは、彼の詩を読んでどう思いますか。初めて読んだときも、今また読み直してもすごいと思います。


 なぜか? 理由などありません、説明などいりません。感動するのです。 


 梅村君のように、自分の気持、こころを素直に表現すればいいわけですが、どうしてか、多くの人が「文章は苦手」と言います。話すように書けばいい、技術なんてないのだからそのまま書けばいい、思ったことを素直に書けばいい……などと文章の指導が行なわれています。


 しかし、苦手と思う人、スラスラと思うように書けない人にとって、なかなか作文、文章、手紙は思うように書けないものです。名案や特効薬はないかもしれませんが、この講座と付き合っていくうちに、必ず自分流に書けるようになると確信しています。


 英語を中高生時代に6年間、習ってきましたが、わたしはほとんど英会話ができません。現在は外国人が学校に赴任し、英会話を教えているようですが、わたしたちの時代は文法一辺やりで、テストのための英語教育でした。文章教育、作文綴り方指導、国語教育もこれに似た現象があります。


 「自分が苦手なのは国語の教育のせいだ」と思えば、少しは気が楽です。国語の先生にはごめんなさい。

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